目次
「応募の連絡がメールと電話とハローワークの紹介状でばらばらに届き、誰に返信したか分からなくなる」「面接の評価が工場長の手帳にしか残っていない」。採用担当が総務や工場長との兼任になっている会社では、こうした状態が珍しくありません。応募が少ないうちは表計算ソフトでも回りますが、媒体や面接官が増えると、返信漏れや日程調整の手間がそのまま応募者の離脱につながります。
そこで候補に上がるのが採用管理システム(ATS)です。ただし、高機能なものを入れれば解決するわけではありません。自社の応募経路や面接の進め方に合わないシステムは、入力の手間が増えるだけで、数か月後には誰も開かなくなります。この記事では、ATSでできること、中小企業が導入を検討すべき目安、選ぶときに比べるべき7つの観点、導入の手順と注意点を、採用担当が少ない会社の目線で整理します。
採用管理システム(ATS)とは|できることと表計算管理との違い
採用管理システム(ATS:Applicant Tracking System)は、応募者の情報と選考の進み具合を一か所で管理するための仕組みです。主な機能は次のとおりです。
- 応募者情報の一元管理:求人媒体、自社サイト、人材紹介、ハローワークなど、経路の違う応募を一つの画面にまとめる
- 選考状況の管理:書類選考中、面接日程調整中、内定、辞退といった段階を一覧で見える化する
- 連絡と日程調整:定型メールの送信、面接候補日の提示、リマインドの自動送信
- 評価の共有:面接官ごとの評価や所感を記録し、関係者で共有する
- 集計・分析:媒体別の応募数、選考段階ごとの通過率、辞退の理由などを集計する
表計算ソフトでの管理と何が違うのか
表計算ソフトでも応募者の一覧は作れます。違いが出るのは、複数の人が同時に関わる場面です。表計算では、最新版がどれか分からなくなる、面接官に見せてはいけない列まで共有してしまう、メールの送信記録が別の場所に残る、といった問題が起きやすくなります。ATSは「誰が、いつ、何をしたか」が履歴として残り、見せる範囲を人ごとに設定できる点が大きな違いです。
一方で、ATSは入れた瞬間に採用が楽になる道具ではありません。応募の受け付け方、面接の段取り、評価の付け方といった業務の流れが決まっていない状態で導入すると、システムの画面に合わせて業務を作り直すことになり、かえって負担が増えます。
中小企業がATSを検討すべき目安
採用に苦戦している会社は多く、リクルートワークス研究所の中途採用実態調査では、2025年度上半期に中途採用で必要な人数を「確保できなかった」企業が56.6%、従業員5〜299人の企業では59.6%にのぼりました。人が採れない状況で、届いた応募への対応が遅れて取りこぼすのは避けたいところです。とはいえ、すべての会社にATSが必要なわけではありません。次の表を目安に、自社の状況を確認してください。
| 状況 | 表計算での管理で足りる | ATSを検討したい |
|---|---|---|
| 応募の量 | 月に数件程度 | 月に10件を超える月が続く |
| 応募経路 | ハローワークと紹介が中心 | 求人媒体や自社サイトなど3経路以上 |
| 選考に関わる人 | 担当者と社長の2名程度 | 工場長や現場リーダーなど面接官が複数 |
| 募集する職種 | 1〜2職種 | 職種や拠点が複数で、同時に募集している |
| 困りごと | 特になし | 返信漏れ・二重連絡・日程調整の手間が目立つ |
右の列に2つ以上当てはまるなら、検討する価値があります。逆に、応募が月に数件で関わる人も少ないなら、まずは表計算の管理表を整え、応募から入社までの段階ごとに人数を記録するところから始めるほうが効果的です。
ATSの種類|自社の採用に合う型を先に決める
ATSは、主に想定している採用の種類によって得意分野が分かれます。比較の前に、自社がどの型を探しているのかを決めておくと、候補を絞りやすくなります。
- 新卒採用向け:説明会や選考会の予約、大量の応募者への一斉連絡が得意。年間を通じたスケジュール管理の機能が厚い
- 中途採用向け:求人媒体や人材紹介会社との連携、職種ごとの選考管理が得意。少人数・通年の採用に合う
- アルバイト・パート向け:応募から面接予約までをスマートフォンで完結させる機能や、応募直後の自動連絡が得意。拠点が多い会社向け
- 求人媒体に付属する管理画面:特定の媒体の応募管理を無料または低い費用で使える。ただし他の経路の応募はまとめにくい
製造業の中小企業では、ハローワーク経由の応募、高校を通じた応募、知人の紹介など、システムと自動でつながらない経路が多いことに注意が必要です。こうした応募を手で登録する手間が大きいと、結局は表計算と二重管理になります。デモや試用の段階で、紙の応募書類やハローワークの紹介を登録する操作も試しておきましょう。
採用管理システムの選び方|比較すべき7つの観点
機能の数で比べると、どのシステムも似たように見えます。自社に合うかどうかは、次の7つの観点で確かめるのが確実です。
1. 自社の応募経路をまとめられるか
使っている求人媒体や人材紹介会社と自動で連携できるかを確認します。連携できない経路については、手入力やファイルの取り込みがどれだけ簡単かを見ます。応募の多い経路から順に、実際の操作で確かめるのが確実です。
2. 現場の面接官が迷わず使えるか
工場長や現場リーダーが面接官を務める場合、パソコンの前にいる時間は限られます。スマートフォンから評価を入力できるか、面接官が見る画面が必要な情報だけに絞られているかは、定着を左右する重要な点です。利用者の数で費用が変わる料金体系なら、面接官のアカウントを何人分用意するかも考えておきます。
3. 連絡と日程調整の手間を減らせるか
応募から最初の連絡までの時間は、面接に来てもらえるかどうかに直結します。応募直後の自動返信、面接候補日を応募者に選んでもらう機能、前日のリマインド送信があるかを確認します。メールより電話やSMSのほうが連絡のつきやすい応募者が多い職種なら、連絡手段の幅も比較のポイントになります。
4. 採用の数字を追えるか
媒体ごとの応募数、書類選考や面接の通過率、内定承諾率、辞退理由などを集計できるかを見ます。数字が自動で集まれば、「応募が少ない」のか「面接に来ない」のか「内定後に断られる」のかを切り分けられ、次の打ち手を決めやすくなります。
5. 個人情報を適切に管理できるか
応募者の情報は個人情報です。厚生労働省の職業安定法に基づく指針では、労働者の募集を行う者に対し、個人情報を正確かつ最新に保つ措置、紛失や改ざんを防ぐ措置、権限のない人のアクセスを防ぐ措置、不要になった情報を破棄・削除する措置を求めています。ATSを選ぶときは、閲覧できる範囲を人ごとに設定できるか、操作の履歴が残るか、不採用者の情報を一定期間後に削除できるかを確認しましょう。
また、外部のサービスに応募者の情報を預ける場合、その扱いが個人情報保護法上の「委託」に当たれば、委託先を監督する責任が自社に生じます。個人情報保護委員会のガイドラインでは、適切な委託先の選定、委託契約の締結、取扱状況の把握が求められています。データの保管場所、セキュリティの認証取得状況、障害や漏えいが起きた際の連絡体制は、契約前に確認しておくべき項目です。
6. 料金体系が自社の採用量に合っているか
ATSの料金は、利用者数で決まるもの、掲載する求人の数で決まるもの、応募数で決まるもの、初期費用がかかるものなどさまざまです。採用の多い年と少ない年で費用がどう変わるか、最低契約期間はどのくらいかを試算しておきます。月々の金額だけでなく、設定や運用にかかる社内の時間も費用として考えるのが現実的です。
7. サポートと「やめるとき」の条件
導入時の初期設定を手伝ってもらえるか、問い合わせへの対応時間はどうかを確認します。見落としがちなのが解約時の条件です。蓄積した応募者情報や選考履歴をファイルで取り出せるか、解約後のデータがいつ削除されるかを、契約前に確かめておきましょう。
ATS導入の手順と失敗しないコツ
導入は、次の順番で進めると失敗が少なくなります。
- 今の採用の流れを書き出す:応募の受け付けから入社までに、誰が何をしているかを一枚にまとめる。困っている作業に印を付ける
- 必須条件を3つに絞る:7つの観点のうち、自社にとって欠かせないものを3つ決める。条件が多すぎると比較が終わらない
- 2〜3社に絞って試用する:実際の求人と、過去の応募者を想定したテストデータで操作する。面接官役の現場の人にも触ってもらう
- 運用ルールを決める:誰がいつ登録するか、評価はいつまでに入れるか、不採用者の情報をいつ削除するかを決めて共有する
- 3か月後に見直す:返信までの時間や面接の実施率が改善したか、使われていない機能はないかを確認し、設定を見直す
よくある失敗は、最初からすべての機能を使おうとすることです。最初は応募の一元管理と連絡の自動化だけに絞り、慣れてから評価の共有や分析に広げるほうが、兼任の担当者でも定着しやすくなります。
生成AI機能つきATSを使うときの注意点
最近は、応募書類の要約、求人票の文案作成、応募者と求人の相性の判定など、生成AIを使った機能を備えたATSも増えています。書類を読む時間を減らせる点は魅力ですが、使い方には注意が必要です。
- 合否の判断は人が行う:AIの判定や点数は参考情報として扱い、最終的な判断と理由の説明は採用担当や面接官が行う
- 判定の根拠を確認する:何を基準に評価しているのかを提供元に確認し、職務と関係のない要素が影響していないかを確かめる
- 応募者への説明:AIを選考に使う場合は、その旨と使い方を応募者に伝えられるようにしておく
- 入力する情報の範囲:応募者の情報がAIの学習に使われるかどうか、どこで処理されるかを契約前に確認する
公正な採用の観点からも、本人の適性や能力と関係のない事項で判断しないことが基本です。便利な機能ほど、どこまでを任せるかを社内で決めてから使い始めましょう。
まとめ
採用管理システム(ATS)は、応募者の情報と選考の進み具合を一か所にまとめ、連絡漏れや日程調整の手間を減らすための道具です。応募が月に10件を超える、応募経路や面接官が多いといった状況なら、導入を検討する価値があります。
選ぶときは機能の多さではなく、自社の応募経路をまとめられるか、現場の面接官が使えるか、連絡と日程調整、数字の把握、個人情報の管理、料金体系、サポートと解約条件の7つの観点で比べてください。導入後は機能を絞って始め、3か月後に見直すのが定着のコツです。
システムを入れても、応募への対応や選考の運用を回す人手が足りない場合もあります。採用業務の設計から日々の運用までをまとめて任せたいときは、RPaaSのような採用代行を検討するのも一つの選択肢です。
よくある質問
採用管理システム(ATS)とは何ですか?
採用管理システム(ATS)は、求人媒体や人材紹介、ハローワークなど経路の違う応募者の情報と、書類選考・面接・内定といった選考の進み具合を一か所で管理する仕組みです。定型メールの送信や面接の日程調整、面接官の評価共有、媒体別の応募数や通過率の集計などができ、返信漏れや二重連絡を防ぎやすくなります。
中小企業でも採用管理システムは必要ですか?
すべての会社に必要なわけではありません。応募が月に10件を超える月が続く、応募経路が3つ以上ある、工場長など面接官が複数いる、返信漏れや日程調整の手間が目立つ、といった状況なら検討する価値があります。応募が月に数件なら、まずは表計算の管理表を整えて段階ごとの人数を記録するほうが効果的です。
採用管理システムを選ぶときに何を比較すればよいですか?
機能の数ではなく、自社の応募経路をまとめられるか、現場の面接官がスマートフォンなどで迷わず使えるか、連絡と日程調整の自動化、採用の数字の集計、個人情報の管理、料金体系、サポートと解約時のデータ出力の7つで比べるのが確実です。必須条件を3つに絞り、2〜3社を実際の求人で試用して決めましょう。
ATSで応募者の個人情報を扱うときの注意点は?
職業安定法の指針では、募集を行う者に個人情報の正確性の確保、紛失や改ざんの防止、権限のない人のアクセス防止、不要な情報の破棄・削除の措置を求めています。閲覧範囲を人ごとに設定できるか、操作履歴が残るか、不採用者の情報を削除できるかを確認し、外部サービスに預ける場合は委託先としての監督も必要です。
AIで書類選考を判定するATSを使っても大丈夫ですか?
書類の要約や整理に使うのは有効ですが、合否の最終判断と理由の説明は人が行うのが基本です。何を基準に評価しているかを提供元に確認し、職務と関係のない要素が影響していないかを確かめましょう。応募者の情報がAIの学習に使われるかどうかも契約前に確認し、AIを使う場合は応募者に説明できるようにしておきます。
出典・参考ソース
- リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2026年度見通し、2025年度上半期実績 正規社員)」(2026年2月)
- 厚生労働省「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- 個人情報保護委員会「クラウドサービス提供事業者が個人情報保護法上の個人情報取扱事業者に該当する場合の留意点に関する注意喚起について」(2024年3月)
- 情報処理推進機構(IPA)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」