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「やっと採用できた新人が、3か月で辞めてしまった」「辞める理由を聞いても『一身上の都合』としか言わない」。中小の工場の経営者や工場長から、採用と同じくらいよく聞く悩みです。求人費をかけ、面接に時間を割き、現場の手を止めて教えた人が辞めると、残った社員の負担はかえって重くなります。
早期離職は、本人の根気や世代の問題として片づけられがちです。しかし統計を見ると、辞める時期と理由にははっきりした傾向があり、工場の受け入れ方を変えることで防げるものが少なくありません。この記事では、製造業の早期離職の実態を数字で確認したうえで、工場の新人が辞める理由と、採用段階・入社後3か月・教育係の支え方に分けた定着策を解説します。
製造業の早期離職の実態を数字で見る
製造業の新卒離職率は低めだが、小さな事業所ほど高い
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者で37.9%、新規大卒就職者で33.8%でした。産業別では製造業は高卒28.6%、大卒21.2%と、全産業の平均より低い水準です。
ただし、事業所の規模で見ると話が変わります。高卒の3年以内離職率は、1,000人以上の事業所では26.3%ですが、30〜99人では45.2%、5〜29人では54.6%にのぼります。製造業全体の数字が低くても、中小の工場では新卒のおよそ2人に1人が3年以内に辞めている可能性がある、と考えておく必要があります。また、高卒就職者の1年目の離職率は17.9%で、3年以内に辞める人の半分近くが最初の1年で辞めています。
製造業は辞める人が入る人を上回っている
厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、製造業の入職率は9.6%、離職率は9.8%で、離職が入職をわずかに上回りました。全産業では入職超過が5年続いているなかで、製造業は人が減る側にあります。採用に力を入れても、辞める人を減らさなければ人員は増えません。採用と定着は、同じ問題の表と裏です。
1年未満で辞める理由は「人間関係」が最も多い
厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査で、若年労働者が初めて勤務した会社を辞めた理由(3つまで回答)を見ると、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」28.5%、「人間関係がよくなかった」26.4%、「賃金の条件がよくなかった」21.8%、「仕事が自分に合わない」21.7%の順でした。注目したいのは、勤続1年未満で辞めた人に限ると「人間関係がよくなかった」が最も多くなる点です。入社直後の離職は、条件よりも職場での関わり方が引き金になりやすいといえます。
工場の新人が辞める5つの理由
統計の傾向を、工場の現場で起きていることに置き換えると、次の5つにまとめられます。
1. 「見て覚えろ」で放置される
ベテランが忙しく、新人が作業の横に立たされたまま何も教わらない。質問しようにも、機械の音と緊張で声をかけられない。新人にとっては「自分は必要とされていない」と感じる時間です。1年未満の離職で人間関係が上位に来る背景には、こうした放置があります。
2. 教育係によって教え方が違う
Aさんに教わったやり方をBさんに注意される。作業標準書が古く、現場のやり方と合っていない。新人は何が正しいのか分からなくなり、叱られる場面ばかりが増えます。教える側に悪気がなくても、新人には「理不尽な職場」と映ります。
3. 体力・暑さ・交替勤務に体が慣れない
立ち仕事、重量物、夏場の暑さ、夜勤を含む交替勤務。工場で働いた経験のない人にとって、最初の1〜2か月は体がついていかない時期です。この時期に休みを取りづらい雰囲気があると、「続けられない」という判断に直結します。
4. 聞いていた話と違う
求人票には「残業少なめ」とあったのに、繁忙期は毎日2時間残業がある。「未経験歓迎」と書いてあったのに、初日から一人で機械を任された。面接で良い面だけを伝えると、入社後のギャップがそのまま退職理由になります。
5. 先の見通しが見えない
何ができるようになれば給与が上がるのか、どんな資格を取れば仕事の幅が広がるのかが分からない。毎日同じ作業の繰り返しに感じ、「ここにいても成長できない」と考えてしまいます。若手ほど、今の条件だけでなく数年後の自分の姿で会社を判断します。
採用段階でできる定着策
早期離職の対策は、入社後ではなく採用の段階から始まります。ギャップを小さくすることが、最も手間のかからない定着策です。
- 求人票に大変な面も書く:繁忙期の残業時間、立ち仕事や重量物の有無、夏場の暑さ、交替勤務の回り方を具体的に書きます。応募は少し減っても、入社後に辞める人は減ります
- 面接で現場を見せる:選考の途中で15〜30分の職場見学を入れ、実際に配属される持ち場を見てもらいます。音や温度、作業の速さは、言葉より見たほうが伝わります
- 配属先の先輩に会わせる:教育係になる予定の人と5分でも話す場を作ると、入社初日の不安が大きく下がります
- 入社後1年の流れを伝える:最初の1か月で覚える作業、3か月後に任せる工程、1年後に目指す段階を、面接の場で説明します
入社後3か月の受け入れ方
辞める人の多くが最初の1年、特に最初の数か月で判断しています。入社後3か月を、受け入れの重点期間として計画しておきます。
| 時期 | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 入社前 | 作業服・保護具・ロッカーの準備、初日の集合時間と持ち物の連絡、教育係の決定 | 初日に「待たされる」「準備されていない」状態をなくす |
| 初日〜1週目 | 雇入れ時の安全衛生教育、工場内の案内、休憩場所・相談先の説明、簡単な作業から開始 | 安全に働ける土台を作り、居場所を感じてもらう |
| 1か月目 | 作業手順を段階ごとに習得、週1回10分の面談 | 分からないことを早めに拾い、つまずきを放置しない |
| 2〜3か月目 | 任せる工程を少しずつ増やす、できるようになった作業を本人と確認 | 成長を実感してもらい、先の見通しを持ってもらう |
安全衛生教育は最初の信頼づくりでもある
労働安全衛生法では、労働者を雇い入れたときに、従事する業務に関する安全衛生教育を行うことが事業者に義務づけられています。機械の危険な箇所、保護具の使い方、異常時に止める方法を最初に丁寧に教えることは、法令上の義務であると同時に、「この会社は自分を大切に扱ってくれる」と新人が感じる最初の機会です。書類を読ませて終わりにせず、実際の持ち場で一緒に確認します。
作業を段階に分けて「できた」を見える化する
持ち場の作業を「見学」「補助付きでできる」「一人でできる」「人に教えられる」のような段階に分け、一覧表にしておきます。新人と教育係が月に1回、どこまで進んだかを確認するだけで、新人は自分の成長を実感でき、教える側も次に何を教えるかが明確になります。この一覧は、昇給や資格取得の目安と結びつけると、先の見通しを示す材料にもなります。
体が慣れるまでの配慮を決めておく
最初の1〜2週間は残業を入れない、夜勤は一通りの作業を覚えてから入れる、夏場はこまめな休憩と水分補給を声がけする、といった配慮をあらかじめ決めておきます。現場任せにすると、忙しい時期ほど新人に無理がかかります。
教育係(OJT担当)を支える仕組み
新人の定着を左右するのは、毎日一緒に働く教育係です。ところが中小の工場では、教育係も生産の担い手で、教える時間が取れないことがほとんどです。教育係個人の頑張りに頼らず、会社として支えます。
- 教育係を明確に決める:「みんなで教える」は「誰も責任を持たない」になりがちです。主に教える人を1人決め、その人が休みの日の代わりも決めておきます
- 教える時間を生産計画に入れる:受け入れ期間は、教育係の担当生産量を少し下げます。教える時間が残業や休憩の削減で生まれている状態は長続きしません
- 作業標準書を現場の実態に合わせる:新人の受け入れを機に、古くなった作業標準書を見直します。教え方のばらつきが減り、教育係の負担も軽くなります
- 教育係以外の相談相手を作る:教育係との相性が合わない場合に備え、別の先輩や総務担当など、もう1人の相談先を決めておきます。1年未満の離職で人間関係が最多であることを考えると、逃げ道があるだけで辞める判断を防げることがあります
- 教えたことを評価する:新人が定着したら、教育係の評価や手当に反映します。教えることが報われる職場では、次の新人も育ちやすくなります
定着の状況を数字で追う
早期離職は、辞めてから気づいても手遅れです。採用担当が兼任の工場でも、次の3つは簡単に記録できます。
- 入社後3か月・1年時点の在籍率:入社者ごとに記録し、配属先や採用経路ごとの違いを見ます
- 面談で出た困りごと:週1回の面談で出た内容を短くメモし、同じ悩みが続く職場を早めに見つけます
- 退職時の本当の理由:退職面談は上司以外が行い、「一身上の都合」の奥にある理由を聞きます
こうした記録を半年に1回見返すだけで、どの職場、どの時期に離職が集中しているかが見えてきます。厚生労働省の調査でも、若年労働者の定着のために事業所が実施している対策で最も多いのは「職場での意思疎通の向上」でした。数字と対話の両方で、新人の様子をつかむことが基本です。
まとめ
製造業の新卒離職率は全産業より低めですが、小さな事業所ほど離職率は高く、製造業全体では辞める人が入る人を上回っています。工場の新人が辞める背景には、放置される不安、教え方のばらつき、体力面の負担、入社前とのギャップ、先の見通しの見えなさがあります。
対策の基本は、採用段階で大変な面も含めて正直に伝えること、入社後3か月を計画的に受け入れること、そして教育係を会社として支えることです。どれも大きな費用はかかりませんが、採用担当が兼任の工場では手が回らないことも多いはずです。採用から入社後の受け入れまでの仕組みづくりを外部に任せたい場合は、RPaaSのような採用代行を検討するのも一つの方法です。
よくある質問
製造業の新卒の3年以内離職率はどのくらいですか?
厚生労働省の令和4年3月卒業者の調査では、製造業の3年以内離職率は高卒28.6%、大卒21.2%で、全産業の高卒37.9%、大卒33.8%より低い水準です。ただし事業所規模が小さいほど離職率は高く、高卒では5〜29人規模で54.6%にのぼるため、中小の工場では注意が必要です。
工場の新人が早く辞めてしまう主な理由は何ですか?
仕事を教わらずに放置される、教育係によって教え方が違う、立ち仕事や暑さ・交替勤務に体が慣れない、求人や面接で聞いた話と実態が違う、何ができれば給与が上がるのか見通しが見えない、といった理由が重なることが多いです。統計でも、勤続1年未満で辞めた人の理由は人間関係が最も多くなっています。
早期離職を防ぐために採用段階でできることはありますか?
求人票に繁忙期の残業や作業の大変さも具体的に書くこと、選考の途中で配属予定の持ち場を見学してもらうこと、教育係になる先輩と話す場を作ること、入社後1年の流れを面接で伝えることが有効です。入社前と入社後のギャップを小さくすることが、最も手間のかからない定着策です。
工場の新人教育で教育係が決まらない場合はどうすればよいですか?
全員で教える形にせず、主に教える人を1人決めたうえで、受け入れ期間中はその人の担当生産量を少し下げて教える時間を確保します。作業標準書を現場の実態に合わせて見直し、教えたことを評価や手当に反映すると、教育係を引き受けてもらいやすくなります。
入社後の面談はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
入社後3か月は週1回10分程度の短い面談がおすすめです。長い面談を月1回行うより、短くても頻度を上げたほうが、作業のつまずきや人間関係の困りごとを早く拾えます。教育係とは別に、総務担当や別の先輩など相談できる相手を決めておくと、本音を話してもらいやすくなります。