目次
1. 「リアリティ・ショック」のメカニズム
入社前に抱いていた「理想の職場像」と、入社後に直面する「現実の職場」との間に乖離(ギャップ)を感じることを「リアリティ・ショック」と呼びます。 これは、採用広報で「良い面」ばかりを強調しすぎた場合や、候補者が勝手に過度な期待を抱いてしまった場合に発生しやすく、入社後3ヶ月以内の早期離職の最大の原因となります。 特に、「裁量権がある=丸投げされる」「スピード感がある=朝令暮改」といった、言葉の解釈のズレが致命傷になりがちです。
2. RJP(Realistic Job Preview)の実践
リアリティ・ショックを防ぐ最も有効な手法が、RJP(現実的な職務情報の事前開示)です。これは選考中に行うべきものですが、入社直後(オンボーディング初期)にも改めて行う必要があります。 「良い情報」だけでなく「悪い情報(ネガティブな側面)」も正直に開示することで、以下の効果が生まれます。
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ワクチン効果: 事前に課題を知らされることで、実際に問題に直面した時の心理的ショックが軽減される。
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スクリーニング効果: 「その程度のカオスなら平気です」という覚悟(Being)を再確認できる。
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信頼関係の構築: 「都合の悪いことも隠さず話してくれる上司だ」という信頼が生まれる。
3. 握るべき「3つの期待値」
入社1週間以内の1on1で、以下の3点について具体的なすり合わせ(期待値調整)を行ってください。
① 役割の期待値(Role Expectation):
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「あなたに任せたいのはここまで。ここからは他のチームの仕事」という境界線を明確にする。
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重要: 「何もしなくていい」ではなく「最初の1ヶ月は成果よりも、業務フローの習得に専念してほしい」と、時間軸を区切って伝える。
② 環境の期待値(Environment Expectation):
「整っていないこと」を正直に伝える。「マニュアルは未完成です。あなたが作りながら進んでください」と伝えることで、不満を「やりがい(Will)」に転換させる。
③ 報酬・キャリアの期待値(Reward Expectation):
「すぐに昇給できる」「すぐマネージャーになれる」という誤解があれば解く。「この成果を出せば、次の査定でこうなる」という現実的なロードマップを再提示する。
4. 心理的契約(Psychological Contract)の締結
雇用契約書(書面)とは別に、従業員と組織の間には「相互に何を期待し、何を提供する義務があるか」という暗黙の了解が存在します。これを「心理的契約」と呼びます。 期待値調整とは、この心理的契約を健全に結び直すプロセスです。 「嘘をつかない」「隠さない」「過度に期待させない」。この誠実さが、長く続くエンゲージメントの土台となります。
Summary
「釣った魚」に対して、「ここは綺麗な水槽だよ」と嘘をつき続けるのは不誠実です。 「泥もあるし、流れも急だけど、君となら素晴らしい景色が作れる」と真実を語り、共に泳ぎ出す覚悟を決めること。それが第5章のゴールです。
Next Step:
新入社員との面談用に「ぶっちゃけトークリスト」を作成しましょう。「ウチの会社のここがカオス」「実はここがアナログ」というネガティブ要素を3つ書き出し、次回の1on1で「驚かないで聞いてほしいんだけど…」と切り出してみてください。