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「今年は何人採れましたか」と聞かれれば答えられても、「応募が何件あって、面接に何人来て、なぜ辞退されたのか」まで即答できる会社は多くありません。採用担当が総務や工場長との兼任で、応募が来るたびに対応に追われていると、数字を振り返る余裕がないのが実情です。
しかし、採用がうまくいかないときに原因を切り分けられるのは、途中の数字を記録している会社だけです。この記事では、採用KPIの意味とKGIとの違い、採用の流れ(ファネル)から逆算して指標を決める3ステップ、段階ごとの指標一覧と目安の考え方を整理します。そのうえで、兼任の担当者でも週15分で回る管理表の作り方と、数字が悪いときの打ち手をまとめます。
採用KPIとは|KGIとの違いと、中小企業ほど必要な理由
採用KPI(Key Performance Indicator)は、採用活動の途中経過を測る指標です。応募数、面接に進んだ人数、内定を出した人数、承諾された割合といった、日々の活動の結果として積み上がる数字を指します。
これに対して採用KGI(Key Goal Indicator)は、採用活動の最終目標です。「来年3月までに生産技術を2名採用する」のように、人数と期限で書くのが基本です。KGIが目的地、KPIは目的地に向かう途中の通過点と考えると分かりやすくなります。
ここで注意したいのは、KGIを「入社人数」だけで終わらせないことです。入社しても短期間で辞めてしまえば、採用活動はやり直しになります。厚生労働省が公表した令和4年3月卒業者の就職後3年以内の離職率は、高卒で37.9%、大卒で33.8%でした。事業所規模が5〜29人の場合は高卒54.6%、大卒52.0%と、半数を超えています。小規模な会社ほど、KGIには「入社1年後に在籍していること」まで含めておくべきです。
なぜ中小企業ほどKPIが必要なのか
リクルートワークス研究所の中途採用実態調査によると、2025年度上半期に中途採用で必要な人数を「確保できなかった」と回答した企業は全体の56.6%で、従業員5〜299人の企業では59.6%にのぼりました。製造業に限っても55.2%が確保できていません。多くの会社が採れていない状況では、「求人を出しても来ない」と感じるのは自然なことです。
問題は、その原因が「応募がそもそも少ない」のか、「応募はあるのに面接に来ない」のか、「内定を出しても断られる」のかによって、打ち手がまったく違う点です。途中の数字がなければ、思いつきで媒体を変えたり、求人票を書き直したりを繰り返すことになります。担当者が1人しかいない会社こそ、限られた時間をどこに使うかを数字で決める必要があります。
もう一つの効果は、経営者や上司への報告が楽になることです。「頑張っているのに採れない」ではなく、「応募は前回の1.5倍あったが、面接の辞退が増えている」と言えれば、次の相談がしやすくなります。
採用KPIを決める3ステップ
採用KPIは、他社の一覧表を写しても機能しません。自社の採用の流れに沿って、ゴールから逆算して決めるのが基本です。
ステップ1|KGIを「人数・期限・定着」で書く
最初に、採用のゴールを一文で書きます。例えば「2027年3月末までに、製造オペレーターを3名採用し、入社1年後も3名が在籍している状態」です。職種、人数、期限、定着の4つが入っていれば十分です。複数の職種を採用する場合は、職種ごとに分けて書きます。難易度が違う職種を一つの数字にまとめると、あとで原因が見えなくなります。
ステップ2|自社の採用ファネルを描く
次に、応募から入社までの流れを段階に分けます。一般的な流れは「応募 → 書類選考 → 面接 → 内定 → 承諾 → 入社 → 定着」です。ハローワーク経由の応募が多い会社なら「紹介 → 面接」、高卒採用なら「職場見学 → 応募前 → 応募」のように、自社の実際の流れに合わせて段階を作ります。ここで大切なのは、実際に人数を数えられる区切りにすることです。
ステップ3|ゴールから逆算して各段階の必要数を出す
最後に、各段階の通過率を仮置きして、ゴールの人数から逆算します。過去の実績があればそれを使い、なければ次のような数字で始めて、実績が出たら置き換えます。
| 段階 | 仮置きの通過率 | 必要な人数(入社2名の場合) |
|---|---|---|
| 応募 | — | 約33名 |
| 書類通過 | 書類通過率 50% | 約17名 |
| 面接実施 | 面接実施率 80%(辞退・無断キャンセルを除く) | 約14名 |
| 内定 | 面接合格率 30% | 4名 |
| 入社 | 内定承諾率 50% | 2名 |
この表があると、「2名採るには月に何件の応募が必要か」「今の応募ペースで間に合うか」が採用期間の途中で分かります。応募が計画の半分しかなければ、面接の質を上げても目標には届きません。逆に応募は十分なのに入社が0名なら、面接か内定の出し方に課題があります。
採用ファネル別のKPI一覧と目安の考え方
段階ごとに見る指標と計算式をまとめます。最初からすべてを追う必要はありません。太字の指標から始めて、慣れてきたら増やしてください。
| 段階 | 指標 | 計算式 | 何が分かるか |
|---|---|---|---|
| 母集団 | 応募数(媒体別) | 期間内の応募件数 | 求人票と媒体の効き目 |
| 母集団 | 応募単価 | 媒体費用 ÷ 応募数 | 媒体ごとの費用対効果 |
| 選考 | 書類通過率 | 書類通過数 ÷ 応募数 | 要件と応募者層のずれ |
| 選考 | 面接実施率 | 面接実施数 ÷ 面接案内数 | 連絡の速さ、日程調整の負担 |
| 選考 | 面接合格率 | 合格数 ÷ 面接実施数 | 面接基準の厳しさ・甘さ |
| 内定 | 内定承諾率 | 承諾数 ÷ 内定数 | 条件とオファーの伝え方 |
| 入社 | 採用充足率 | 入社数 ÷ 計画人数 | 採用活動全体の達成度 |
| 入社 | 採用リードタイム | 応募日から入社日までの日数 | 選考の長さ、他社に先を越されるリスク |
| 入社 | 採用単価 | 採用にかかった総費用 ÷ 入社数 | 1名採用の実質コスト |
| 定着 | 早期離職率 | 入社1年以内の離職数 ÷ 入社数 | 期待値のずれ、受け入れ体制 |
目安は「外の統計」より「自社の前回」
通過率の目安を知りたいという相談は多いのですが、応募経路や職種で大きく変わるため、業界共通の正解はありません。参考にできるのは、公的統計が示す大まかな水準です。例えば厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、製造業の常用労働者の離職率は9.8%で、入職率9.6%を上回る離職超過でした。全産業では入職率14.7%、離職率13.7%の入職超過なので、製造業は「入る人より辞める人が多い」状態にあります。新卒の3年以内離職率は、製造業では高卒28.6%、大卒21.2%と、全産業平均より低い水準です。
こうした数字は「自社が業界の中でどの位置にいるか」を知る手がかりにはなりますが、KPIの目標値としては使いません。目標値の置き方は、まず1回分の採用で実績を記録し、次の採用でその数字を上回ることを目指す、という順番が現実的です。他社と比べて一喜一憂するより、自社の前回と比べて改善しているかを見るほうが、打ち手につながります。
中小企業向け「採用KPI管理表」の作り方
管理表は、表計算ソフトの1枚で十分です。採用管理システムを入れるかどうかは、まず表で記録の習慣がついてから判断すれば遅くありません。
表の構成
行は職種と媒体の組み合わせ、列は採用ファネルの段階にします。例えば次のような列です。
- 職種 / 媒体 / 応募日
- 応募 / 書類通過 / 面接案内 / 面接実施 / 合格 / 内定 / 承諾 / 入社
- 辞退・不合格の理由(一言で)
- 次のアクションと期日
各段階の人数を入れれば、通過率は自動で計算できます。応募者ごとに1行を使い、進んだ段階に日付を入れていく形にすると、リードタイムも同時に取れます。
運用のルール
記録が続かない最大の原因は、「後でまとめて入力しよう」とすることです。応募が来た時点で1行追加し、面接や内定のたびに日付を1つ入れる、という運用にします。そして週に1回、15分だけ表を眺める時間を決めます。見るのは「先週からどの段階が動いたか」「止まっている応募者は誰か」「計画のペースに乗っているか」の3点です。
経営者への報告は、応募数、面接実施率、内定承諾率の3つに絞ると伝わりやすくなります。この3つが分かれば、母集団・選考・クロージングのどこに課題があるかが共有できます。
KPIの数字が悪いときの読み方と打ち手
数字は記録するだけでは意味がありません。どの段階が悪いかによって、打ち手を変えます。
応募数が少ない
求人票の内容、掲載媒体、募集条件のどれかがずれています。厚生労働省の一般職業紹介状況によると、令和8年7月の有効求人倍率は1.18倍、正社員に限ると1.00倍で、製造業の新規求人は前年同月比6.8%増でした。同業の求人が増えている中で選ばれるには、仕事内容や勤務体系が具体的に書かれているかを見直すのが先です。媒体を増やす前に、媒体別の応募数を見て、効いている媒体に集中する判断もできます。
面接実施率が低い
応募はあるのに面接に来ない場合、連絡の遅さが最も多い原因です。応募から連絡までの時間を記録し、原則として翌営業日までに日程候補を送る運用にします。日程調整のやり取りが何往復もかかるなら、候補日をこちらから複数提示する、あるいは日程調整を自動化する仕組みを使うことで改善します。
面接合格率が極端に低い、または高い
合格率が10%を切るなら、書類選考の基準と面接の基準がずれているか、採用要件が高すぎる可能性があります。逆に90%を超えるなら、面接で見極めができていないかもしれません。面接官ごとの合格率を比べると、評価のばらつきも見えてきます。
内定承諾率が低い
条件面の問題と、伝え方の問題を分けて考えます。辞退理由を必ず聞いて表に残し、「他社の条件が良かった」が続くなら条件の見直し、「会社の雰囲気が分からなかった」が続くなら、職場見学や現場社員との面談を選考に組み込みます。内定から回答期限までの日数が長すぎて、他社に先を越されているケースもあります。
早期離職が続く
採用の数字は良いのに1年以内に辞める人が多いなら、募集時に伝えた内容と実際の仕事の差、つまり期待値のずれを疑います。入社後の受け入れ体制と合わせて、求人票と面接で「大変な部分」も正直に伝えているかを確認します。
採用KPI運用でよくある失敗
- 指標が多すぎる:10個以上の指標を並べても、兼任の担当者は追いきれません。最初は応募数・面接実施率・内定承諾率・早期離職率の4つで始めます。
- 応募数だけを追う:応募が増えても、要件に合わない応募ばかりでは書類選考の負担が増えるだけです。書類通過率とセットで見ます。
- 統計と比べて安心する、または落ち込む:公的統計は水準を知る参考にとどめ、目標は自社の前回実績から置きます。
- 記録が属人化する:担当者の頭の中だけにある数字は、担当が変わると消えます。表の置き場所と入力ルールを決め、誰でも見られる状態にしておきます。
- 振り返る日を決めていない:週1回15分でも、決めておかなければ実行されません。
まとめ
採用KPIは、採用のゴール(KGI)を人数・期限・定着で書き、自社の採用ファネルを描いて、ゴールから逆算して各段階の必要数を出す、という3ステップで決まります。指標は最初から増やさず、応募数・面接実施率・内定承諾率・早期離職率の4つから始め、表計算の1枚に応募のたびに記録し、週1回15分で振り返る運用にすると、兼任の担当者でも続けられます。
数字が悪いときは、どの段階が悪いかで打ち手が変わります。応募が少なければ求人票と媒体、面接に来なければ連絡の速さ、承諾されなければ条件と伝え方、すぐ辞めるなら期待値のずれを疑ってください。記録と振り返りを続ける時間がどうしても取れない場合は、応募対応や日程調整の自動化、あるいは採用業務の設計から実行までを任せられる採用代行を検討する選択肢もあります。まずは次の募集から、応募者ごとに1行を記録するところから始めてみてください。
よくある質問
採用KPIと採用KGIの違いは何ですか?
採用KGIは採用活動の最終目標で、「来年3月までに製造オペレーターを3名採用し、1年後も在籍している」のように職種・人数・期限・定着で書きます。採用KPIはその途中経過を測る指標で、応募数、面接実施率、内定承諾率、早期離職率などです。KGIが目的地、KPIは通過点と考えると分かりやすく、KPIを見ることで目標に届かない原因をどの段階にあるかで切り分けられます。
採用KPIはいくつ設定すればよいですか?
採用担当が兼任の中小企業なら、最初は応募数・面接実施率・内定承諾率・早期離職率の4つで十分です。それぞれ母集団・選考・クロージング・定着の状態を表すので、どこに課題があるかは分かります。10個以上の指標を並べると記録も振り返りも続きません。運用が定着してから、媒体別の応募単価や採用リードタイムなどを必要に応じて足していきます。
内定承諾率や面接通過率の目安はどのくらいですか?
応募経路や職種で大きく変わるため、業界共通の正解はありません。最初の採用では書類通過率50%、面接実施率80%、面接合格率30%、内定承諾率50%程度を仮置きして必要応募数を逆算し、1回分の実績が出たらその数字に置き換えるのが現実的です。目標値は他社の数字ではなく、自社の前回実績を上回ることに置くと、打ち手につながりやすくなります。
採用担当が兼任でも採用KPIの管理はできますか?
できます。表計算ソフトの1枚に、応募者ごとに1行を作り、書類通過・面接・内定・承諾・入社の各段階に日付を入れるだけの運用にします。応募が来た時点で1行追加し、後でまとめて入力しないのがコツです。週に1回15分、先週からどの段階が動いたか、止まっている応募者は誰か、計画のペースに乗っているかの3点だけ見れば、兼任でも続けられます。
早期離職率はどう計算し、どの水準を目安にすればよいですか?
入社1年以内に離職した人数を入社人数で割って算出します。参考として、厚生労働省の公表では令和4年3月卒業者の3年以内離職率は高卒37.9%、大卒33.8%、製造業では高卒28.6%、大卒21.2%でした。事業所規模5〜29人では高卒・大卒とも5割を超えています。この水準は業界の位置を知る参考にとどめ、自社では前回の採用より下げることを目標にします。